【心理】 心の傷、明かせない記憶 -徴候・記憶・外傷 - ブログでいろいろ書いてみる(仮)
身体の傷は何ヶ月かで癒えるのに心の傷はどうして癒えないのか。40年前の傷がなお血を流す。 ――ヴァレリー「カイエ」
以前、感想を書いた「発達障害のいま」を読み、どうしても読みたくなった(確かめたくなった)本があります。発達障害と虐待からのトラウマが複雑に組み合わさり、統合失調症の様態を示してしまう。この記述を確かめるべく、統合失調症と外傷に縁が深いセンセイの本を読む。
中井久夫センセイの本はこれで3冊目。もともとセンセイは統合失調症の専門で、患者の精神世界を探る方法として「風景構成法」を考案されたことでも有名。また、神戸の震災で被災、精神科部長として陣頭指揮を執り【記事】、今ではよく知られるようになったPTSD(心的外傷後ストレス障害)のケアにも関わった方です。日本でPTSDという言葉が認知されたのも、阪神淡路大震災からとも言われています。センセイは心的外傷と統合失調� �との関係をどのように考えていたのだろう?という疑問を持ちながら読みすすめる。
膀胱の感染背中の痛み
記憶のメカニズムやヴァレリーのエピソードを交えながら、センセイが実際に行った治療となしえなかった治療の話へと入っていく。外傷と統合失調症の様態については、どうもフラッシュバックと妄想に大きな違いがあるようだ。外傷患者が見るフラッシュバックは、危機の体験が色あせることなく再生されるのに対し、統合失調症の妄想は出てはきてもそのまま記憶から消えていくという。しかしその内容よりも、センセイが明かす心的外傷患者の特異な振舞いに意識を持っていかれてしまった。一度読むと、確かにそうだと思う。ただ、読んでハッとさせられた、重大な文章に突き当たる。
一般に外傷関連障害は決して発見しやすいものではない。葛藤を伴うことの少ない天災の場合でさえアンケートをとり、訪問しても、なお発見が困難なくらいである。人災の場合になれば、患者は、誤診をむしろ積極的に受け入れ、長年その無効な治療を淡々と受けていることのほうが普通である。外傷関連患者は治療者をじっと観察して、よほど安心するまで外傷患者であることを秘匿する。 p96(強調は本文より)
不安の治療法
「発達障害のいま」では、どのように治療を行ったかを中心に書かれていたので、外傷経験を引き出すまでの過程がほとんど触れられていなかったことに気づく。著者の杉山センセイの対象が子ども、もしくは子どもを巻き込んでいると自覚している母親中心だったので、外傷体験を語ってもらう段階までのラポール(信頼関係)形成がしやすかったのかもしれない。外傷治療に有効とされるEMDRという技法が使えれば治療が可能となるといった単純な話しではない。それ以前の、いかに外傷を発見し、また語ってもらうまでの信頼関係をいかに構築するかの問題に気づかされる。当然と言えば当然の問題だが、「この技法があれば…」と、どこか安易に考えてしまっていた。なんとも情けない。
では、なぜ人は外傷を隠すのか。� �井センセイは、人が「我慢する動物」であり、傷を隠すことができる能力があること、そしてなにより、「恥の意識」から隠すのではないかと指摘する。「恥の意識」。心理士は人の弱み、弱さを扱う職業。入試勉強ばかりやっていると「正解(合意による確認)」ばかりに気をとられ、こんな大事なことを忘れがちになる。注意しなくては。
滑液包炎足
また、外傷に関する研究がなかなか進まない理由についても触れられています。外傷治療は個人の情報を多く含んでいるため、事例を発表するのが難しいということ。また、同意を得て個人が特定されないように情報を加工しても、加工しすぎると誰にでも当てはまる事例内容になりかねないこと。そこでセンセイは動物精神医学から多くを学べるのではないかと考えているようです。また、動物精神治療の基本線は心的外傷の治療と一致するらしい(p95)。8年前の著書でこのように書かれているのであれば、何かしら成果が出ているかもしれない。あらためて確認しよう。
最後に、上で少し触れたEMDRについてですが、中井センセイは試す前に現場を離れてしまった らしい。今あらためてどう考えているのだろう。こちらも確認してみよう。
蛇足:本書を読むキッカケとなった漫画も紹介しておきます。
徴候・記憶・外傷 目次
まえがき
1 徴候
世界における索引と徴候
「世界における索引と徴候」について
2 記憶
発達的記憶論――外傷性記憶の位置づけを考えつつ
3 外傷
トラウマとその治療経験――外傷性障害私見
統合失調症とトラウマ
外傷神経症の発生とその治療の試み
外傷性記憶とその治療――一つの方針
4 治療
医学・精神医学・精神療法は科学か
統合失調症の経過と看護
「統合失調症」についての個人的コメント
5 症例
統合失調症の精神療法――個人的な回顧と展望
高学歴初犯の二例
「踏み越え」について
6 身体
身体の多重性
「身体の多重性」をめぐる対談――鷲田清一とともに
アジアの一精神科医からみたヨーロッパの魔女狩り
あとがき
0 コメント:
コメントを投稿